
「給与を上げれば応募が増える」—これは採用活動における最も一般的な常識の一つです。しかし、私たちが実際に行った実験は、この常識が必ずしも正しくないことを証明しました。
特定の技術職の採用において、Indeedで3つの異なる年収帯で同時掲載を行った結果、予想を覆すデータが得られました。最も高い給与を提示した求人が、最も応募率が低かったのです。
本記事では、この実験から得られた知見をもとに、採用における給与設定の本質、求職者心理、そして各プラットフォームの特性を活かした戦略的な採用手法について、あたりまえリクルーティングの視点から徹底解説します。
監修者

株式会社Revive代表
熊野拓人
法人向けにインフラ系商材の電話営業を行い、キャリア内で全国売上No.1の販売代理店において新人賞を3ヶ月で獲得。営業人材の育成、営業業務の代行を主軸に2021年株式会社Reviveを設立。2年で計100名以上の営業組織を構築し、50社以上の営業プロジェクトに携わる。後に動画やWebにおけるクリエイティブの制作から採用支援サービスを開始。現在では採用計画の立案から、一次面接の代行までを請け負う総合的な採用支援活動を行い、中小企業を中心に約50社以上を採用成功に導く。

株式会社Revive代表
熊野拓人
法人向けにインフラ系商材の電話営業を行い、キャリア内で全国売上No.1の販売代理店において新人賞を3ヶ月で獲得。営業人材の育成、営業業務の代行を主軸に2021年株式会社Reviveを設立。2年で計100名以上の営業組織を構築し、50社以上の営業プロジェクトに携わる。後に動画やWebにおけるクリエイティブの制作から採用支援サービスを開始。現在では採用計画の立案から、一次面接の代行までを請け負う総合的な採用支援活動を行い、中小企業を中心に約50社以上を採用成功に導く。
目次
実験の背景と目的
採用市場において「給与を上げれば人が集まる」という考え方は広く浸透していますが、果たしてそれは本当なのでしょうか。私たちは実際に同一企業における求人で異なる年収帯の求人を掲載し、実際の応募データを取り、この仮説を検証することにしました。
実験の設計
私たちは、ある特定の技術職ポジションの採用において、以下の条件でIndeedに求人を掲載しました。
実験条件
- 職種:同一の技術職(具体的な技術スキルを要する専門職) ※本実験では美容師採用
- 勤務地・業務内容・求める人物像:すべて同一(神奈川県)
- 唯一の変数:年収帯(高・中・低の3パターン)
年収設定
- 高年収求人:年収550〜700万円
- 中年収求人:年収450〜600万円
- 低年収求人:年収380〜500万円
それぞれの求人を同時期に掲載し、表示数、クリック数、応募数、応募率を詳細に追跡しました。
通常であれば、高年収求人が最も多くの応募を集めると予測されます。求人媒体のアルゴリズムも、求職者の行動も、全て給与の高さに連動するという前提に基づいています。
驚きの実験結果:予想を覆すデータ
実験開始後、私たちが目にしたデータは予想を大きく裏切るものでした。
Indeedアルゴリズムの判断
Indeedプラスのアルゴリズムは予測通り、高年収求人に最も多くの表示回数を配分しました。これは、過去のデータや求職者の検索行動から、「高年収=高い関心」と判断した結果です。
高年収の求人は確かに求職者の目を引き、多くのクリックを獲得しました。ここまでは、全て理論通りです。
衝撃の応募率データ
しかし、ここから予想外の事態が発生しました。
応募率(クリック数に対する応募数の割合)
- 高年収求人:最も低い
- 中年収求人:中程度
- 低年収求人:最も高い
なんと、最も給与が低い求人が、最も高い応募率を記録したのです。
表示数が最も少なかったにもかかわらず、最終的な応募獲得効率では、低年収求人が最も優れた結果となりました。
このデータが示すのは、以下の明確な事実です。
- 給与の高さは「興味」を引くが「応募」には繋がらない
- 表示数やクリック数は必ずしも応募数と比例しない
- 応募のハードルは給与以外の要素が大きく影響する
なぜこの逆説が起きたのか?技術職特有の応募心理
この実験結果を深く分析すると、技術職ならではの心理的メカニズムが見えてきました。給与の高さが、むしろ応募の障壁となっていたのです。
心理的プレッシャーの発生
高年収求人に対して、技術職の求職者が感じる心理的プレッシャーは想像以上に大きいものです。
求職者の内なる声
- 「年収700万円ということは、相当高度なスキルが求められるのでは?」
- 「自分の経験で、本当にこの金額に見合う働きができるだろうか?」
- 「面接で高度な技術試験があるかもしれない…」
- 「入社後、期待値が高すぎて失望させてしまうのでは?」
特に日本人の技術者には、謙虚で自己評価が控えめな傾向があります。
技術職特有の慎重な判断傾向
- スキルマッチへの強い
こだわりを持つ技術者は、自分のスキルセットと求人要件を詳細に比較し、「本当に自分に適しているか」を慎重に判断します。給与が高いということは、それだけ高度なスキルや経験が必要だと解釈され、応募のハードルが上がります。 - 失敗への恐れ
「入社したものの、期待値に応えられず早期退職」という失敗シナリオを、技術者は特に恐れます。給与が高ければ高いほど、この恐れは増幅されます。 - 成長機会の重視
必ずしも現時点での高給よりも、「技術を学べる環境」「成長できるプロジェクト」を重視する技術者も多くいます。特に若手〜中堅層では、この傾向が顕著です。
給与額が示すメッセージの違い
高年収求人(550〜700万円)が発するメッセージ
- 「即戦力として高度なスキルを発揮してほしい」
- 「入社初日から期待値は非常に高い」
- 「ミスマッチは許されない」
低年収求人(380〜500万円)が発するメッセージ
- 「未経験や経験浅めでも挑戦できそう」
- 「育成前提で、成長しながら働ける」
- 「プレッシャーが少なく、安心して応募できる」
求職者は、求人を見た瞬間に無意識に以下の計算を行います。
提示された給与額を見る
→その給与に見合うスキル・経験レベルを推測する
→自分の現在のスキル・経験と比較する
→ギャップの大きさを評価する
→応募するかどうか決定する
高年収求人では、「ギャップが大きすぎる」と判断され、応募に至らないケースが多発したと考えられます。
Indeedユーザー層の分析と理解
各求人プラットフォームには独自のユーザー層が存在し、それを理解せずに採用活動を行うことは、魚のいない池で釣りをするようなものです。
求人プラットフォームごとのユーザー特性
Indeed
- 年収帯:200〜400万円が中心層
- キャリアレベル:初級〜若手中堅
- 特徴:転職活動初期、まずは幅広く求人を見たい層
Doda・マイナビ転職
- 年収帯:300〜500万円
- キャリアレベル:若手~中堅
- 特徴:転職サポートを受けながら活動したい層
人材紹介・スカウト型サービス
- 年収帯:500万円以上
- キャリアレベル:中堅〜ベテラン
- 特徴:専門性を活かしたキャリアアップ志向
ハイクラス向け人材紹介
- 年収帯:700万円以上
- キャリアレベル:上級〜エグゼクティブ
- 特徴:ヘッドハンティング、高度な専門性
プラットフォームのレイヤー(層)を超えた求人の問題
今回の高年収求人(550〜700万円)は、Indeedのコアユーザー層のレイヤーを超えてしまった可能性が高いです。
レイヤーミスマッチの構造
| ハイクラス向け人材紹介の領域 | 年収700万円以上 |
| 人材紹介・スカウト型の領域 | 年収500万円 |
| Doda・マイナビの領域 | 年収300〜400万円 |
| Indeedコアユーザー層 | 年収200万円 |
このレイヤーミスマッチにより、以下の現象が発生しました。
- 関心は引くがマッチしない:Indeedユーザーは高年収に興味を持ちクリックするものの、自分のレイヤーに合わないと判断し応募に至らない
- 本来のターゲット層にリーチしていない:年収700万円レベルの人材は、そもそもハイクラス向け人材紹介やスカウトサービスを使っている
- 費用対効果の悪化:クリック課金制の場合、クリック数は多いが応募に至らないという状況は、採用コストの無駄遣いとなる
給与設定における戦略的アプローチ
採用を成功させるためには、単に給与を上げるのではなく、プラットフォーム特性と求職者心理を理解した戦略的な給与設定が必要です。
プラットフォーム特性に合わせた給与設定
戦略的給与設定のフレームワーク
- STEP1:ターゲット人材の明確化
求めるスキルレベル、必要な実務経験年数、現在の推定年収、どのレイヤーの人材かを明確にします。 - STEP2:プラットフォーム選定
ターゲット層が実際に使用しているプラットフォームを特定します。 - STEP3:最適な給与レンジの決定
プラットフォームのコアユーザー層の年収帯+10〜20%を目安に設定します。 - STEP4:段階的アプローチの検討
複数のプラットフォームで異なる年収帯を提示し、それぞれの特性に最適化します。
実践的な給与設定の例
若手技術者の採用(経験1〜3年)
- 提示年収:320〜450万円
- 最適プラットフォーム:Indeed
- 訴求ポイント:成長環境、教育体制、メンター制度
中堅技術者の採用(経験3〜7年)
- 提示年収:450〜650万円
- 最適プラットフォーム:Doda、マイナビ転職
- 訴求ポイント:技術的チャレンジ、裁量権
ベテラン技術者の採用(経験7年以上)
- 提示年収:650〜900万円
- 最適プラットフォーム:人材紹介、スカウト型サービス
- 訴求ポイント:技術戦略への関与、事業インパクト
給与以外の訴求ポイントの強化
今回の実験が示すもう一つの重要な洞察は、「給与は重要だが唯一の要素ではない」ということです。
技術職が本当に重視する要素
- 技術的な成長機会(最新技術、レベルの高いエンジニアから学べる環境)
- 開発環境・技術スタック(使用言語、開発手法、最新ツール)
- ワークライフバランス(リモートワーク、フレックス、残業時間)
- チーム・組織文化(メンバー構成、技術への理解、裁量権)
- プロジェクトの社会的意義(社会への価値提供、事業の成長性)
技術職採用で本当に重要な要素とは
給与だけでは人は動きません。技術職採用に成功している企業には、給与以外の明確な共通点があります。
採用成功企業の5つの特徴
- 技術への投資と理解
最新の開発環境・ツールへの投資、技術的な挑戦を推奨する文化、経営層の技術への理解と尊重。これは、あたりまえリクルーティングの「職場環境」に直結します。 - 透明性の高い情報発信
技術ブログでの情報発信、GitHubでのOSS活動、勉強会の開催・登壇。これは「プロモーション」の重要な要素です。 - 技術職求職者の声を聞く姿勢
ボトムアップの提案が通る、技術選定への裁量権、働き方への柔軟な対応。 - キャリアパスの明確化
技術者としての成長ルート、評価基準の透明性。これは「評価制度」の整備に関わります。 - コミュニティとの関係性
技術コミュニティへの参加支援、社内外での知見共有。
中小企業ならではの戦い方
大手企業と同じ土俵(高年収)で戦うのではなく、中小企業の強みを活かした採用戦略が重要です。
中小企業の強みを活かす訴求ポイント
- 幅広い経験機会:企画から設計、実装、運用まで一気通貫で経験できる
- 経営との距離の近さ:技術的な提案が直接経営判断に影響する
- 裁量権の大きさ:技術スタックの選定から開発プロセスまで主導できる
- 柔軟な働き方:リモートワーク、フルフレックス、副業OK
- 成長企業での経験価値:組織が成長する過程を経験できる
まとめ:採用に万能薬はない
今回のIndeed実験から得られた知見は、採用活動における「あたりまえ」の重要性を改めて示すものでした。
重要な洞察
- 給与は重要だが、唯一の要素ではない
高年収求人が必ずしも多くの応募を集めるわけではありません。 - プラットフォームのユーザー層を理解せよ
Indeedのコアユーザー層は年収200〜400万円帯です。ここで年収700万円の求人を出すことは、的外れな戦略と言えます。 - 応募心理への深い理解が不可欠
特に技術職では、高すぎる給与が心理的プレッシャーとなり、応募を躊躇させます。 - データに基づいた継続的改善
予測や感覚ではなく、実際のデータを測定し、分析し、改善する。このサイクルが採用成功の鍵です。 - 企業の実情に合わせた戦略
大手企業の真似ではなく、自社の強みを活かした独自の採用戦略を構築することが重要です。
あたりまえリクルーティングの視点から
採用活動における「あたりまえ」とは
「これさえやればOK」という魔法のような手段は存在しません。企業ごとの課題、ターゲット人材、予算、組織文化…これらすべてを考慮した、複合的な施策が必要です。
しかし、その複雑さの中にも、データに基づいた合理的な判断と、継続的な改善というシンプルな原則があります。重要なのは、自社の状況を正しく把握し、データを測定し、それに基づいて改善を続けること。これこそが、あたりまえリクルーティングが提唱する「当たり前のことを当たり前に実行する」採用活動の本質なのです。
あたりまえリクルーティングの採用支援サービス
本記事でお伝えした「データに基づく採用戦略」「プラットフォーム特性の理解」「継続的改善」は、理論としては理解できても、実践には多くのハードルがあります。
あたりまえリクルーティングでは、これらの課題を解決するための実践的な採用支援サービスを提供しています。
私たちがサポートできること
- 採用データ分析と戦略立案
- 求人票の最適化支援
- 採用プロモーション戦略
- 継続的な改善サポート
まずは貴社の採用力を客観的に評価する「採用力診断」(120問)から始めてみませんか?
6つの視点(職場環境・採用計画・人事評価制度・プロモーション・採用リテラシー・パッション)から、貴社の強みと改善点を明確化します。
採用活動における「あたりまえ」を徹底することで、確実な成果を上げていきましょう。

