「新卒を採るために初任給を上げたら、教える側の先輩社員が転職を考え始めた」。こんな声が2026年、中小企業の現場で急増しています。
データでは、給与逆転を経験した既存社員の87.5%が「不公平」と感じ、うち72.2%が転職を検討しています(参考:Job総研『2026年 新卒の給与に関する意識調査』)。良かれと思った採用施策が、組織のエンゲージメントを一瞬で壊してしまうのです。
この板挟みを解消する鍵は、賃上げ額の勝負ではなく「説明・キャリア設計・働き方」を軸にした採用マーケティングにあります。本記事では、中小企業の経営者・人事担当者向けに、給与逆転による組織崩壊を防ぐ3施策を現場目線で解説します。
目次
監修者

株式会社Revive代表
熊野拓人
21歳で起業後、営業支援・採用支援事業を展開。
伴走型採用支援サービス「あたりまえリクルーティング」を立ち上げ、これまで250社以上の採用支援に携わる。
2024年にはカーブアウトM&A(事業売却)を実施。現在は従業員1,000名規模の派遣会社にて経営企画部長・総務部長を兼任し、採用・組織づくり・人事制度設計を推進している。
採用支援会社としての現場経験と、事業会社の責任者としての実務経験の両面から、多くの成功と失敗を見てきた稀有なキャリアを持つ。
企業と個人がお互いを理解し、より良い出会いを実現する採用の在り方を追求している。

株式会社Revive代表
熊野拓人
21歳で起業後、営業支援・採用支援事業を展開。
伴走型採用支援サービス「あたりまえリクルーティング」を立ち上げ、これまで250社以上の採用支援に携わる。
2024年にはカーブアウトM&A(事業売却)を実施。現在は従業員1,000名規模の派遣会社にて経営企画部長・総務部長を兼任し、採用・組織づくり・人事制度設計を推進している。
採用支援会社としての現場経験と、事業会社の責任者としての実務経験の両面から、多くの成功と失敗を見てきた稀有なキャリアを持つ。
企業と個人がお互いを理解し、より良い出会いを実現する採用の在り方を追求している。
初任給引き上げで既存社員が辞める「給与逆転現象」の実態

「新卒採用のために初任給を上げたら、既存社員から不満が噴出した」。こんな声が2026年の中小企業で急増しています。少子高齢化と大企業の賃上げ攻勢を受け、多くの経営者が苦渋の初任給引き上げに踏み切りました。
しかしその裏で、新人の給与が既存社員を上回る「給与逆転現象」が組織を静かに蝕んでいます。教える側の先輩社員が離職を選ぶ深刻な実態と、板挟みで身動きが取れない経営の現場を紐解いていきます。
給与逆転で失う「教える側」のモチベーション
給与逆転が起きた瞬間、教える側の先輩社員のモチベーションは一気に崩れます。理由はシンプルで、経験や実績が正当に評価されていないと感じるからです。実際、既存社員の87.5%が給与逆転を「不公平」と感じ、うち72.2%が転職を検討しています(参考:Job総研『2026年 新卒の給与に関する意識調査』)。
具体的な不満の内訳は次のとおりです。
| 項目 | 割合 |
| 給与逆転を「不公平」と感じる既存社員 | 87.5% |
| 転職を検討する既存社員 | 72.2% |
| 不満理由:自分たちには経験・実績がある | 63.0% |
| 不満理由:既存社員の給与が上がらない | 49.2% |
※出典:Job総研『2026年 新卒の給与に関する意識調査』
数字の背景にあるのは「経験や貢献を軽視された」という怒りです。エース級の若手・中堅から静かに離職し、後には熱意を失ったベテランと高給の新人だけが残るでしょう。良かれと思った採用施策が組織のエンゲージメントを一瞬で壊す、それが給与逆転の恐ろしさなのです。
「上げないと採れない」板挟みで苦しむ経営の実情
多くの中小企業の経営者は「上げないと採れない、でも上げると既存社員が辞める」という板挟みに苦しんでいます。2026年度に初任給を引き上げた企業は約7割に達しました(参考:帝国データバンク「初任給に関する企業の動向アンケート(2026年度)」)。しかし賃上げに踏み切った多くの企業が、給与逆転を「深刻な組織課題」として抱え込んでいるのが実情です。
背景にあるのは、賃上げの原資不足という重い現実です。既存社員にも還元したい思いはあっても、財源には限りがあります。かといって初任給を上げなければ、求人票を出しても応募がゼロという事態も起こりえます。
解決策を見出せないまま、経営者は既存社員に「今の採用市場はこうだから理解してくれ」と曖昧な説明で濁してしまいがちです。この対応が現場の歪みを広げ、給与逆転問題を一層深刻化させています。
関連記事:中小企業が採用できない理由|条件は悪くないのに応募が来ない原因と対策
中小企業で給与逆転が起きる2つの構造的要因

給与逆転問題の本質は、単なる「お金の不足」ではありません。採用活動と社内の評価・教育制度が分断されていることこそが、真の原因です。
多くの企業では採用と評価が別々のタスクとして扱われがちですが、両者は本来ひとつの会社づくりでつながっています。ここでは、中小企業で給与逆転が生じる2つの構造的要因を見ていきます。
給与設定の理由を語らない経営陣の説明不足
給与逆転で組織を崩壊させる最大の要因は、経営陣が給与設定の理由を語らない「説明不足」です。経営者の中には「会社の未来のために新卒の給与を上げた」というロジックがあります。しかしそれを現場に一切言語化せず、求人票の数字だけが独り歩きすると、既存社員は不信感を強めていくのです。
現場では「会社は自分たちの頑張りを見てくれていない」「釣った魚にエサをやらない方針なんだな」と受け止められがちです。この背景にあるのは、「突っ込まれたら気まずい」という経営陣の消極姿勢でしょう。お金がないこと以上に、「なぜその給与設定なのか」を言語化しない姿勢こそが、組織崩壊の引き金を引いているのです。
外部人材依存から自社育成へ転換できない体制の弱さ
もうひとつの構造的要因は、中途採用に頼り続けて社内育成の体制を作れないことです。中小企業における中途採用の難易度は近年爆発的に上がりました。優秀な即戦力がいたとしても、大企業や資金力のあるスタートアップに高年収でさらわれてしまいます。
これからの時代は、新卒をしっかり確保して社内の「教育で勝つ」体制へ舵を切ることが不可欠です。ただしそのためには、教える側である既存社員のモチベーションが絶対に欠かせません。新卒の給与だけを上げて教育係の給与を据え置く行為は、自ら「教育の仕組み」を破壊しているのと同じです。
関連記事:早期離職の原因は会社の責任?採用ミスマッチを防ぐ中小企業のオンボーディング戦略
組織崩壊を回避する|中小企業の採用戦略3つの施策

資本力に限りがある中小企業でも、給与逆転による組織崩壊は必ず防げます。鍵になるのは、採用を求人広告だけで完結させず「魅力設計」から「定着設計」までを一気通貫でつなぐ視点です。ここでは、今すぐ取り組める3つの具体策を紹介します。
給与設定の理由を経営陣が誠実に言語化する
最初の施策は、経営陣が給与設定の理由を全社に対して誠実に言語化することです。既存社員の不信感の多くは、「隠されている」という感覚から生まれます。逆に言えば、誠実な説明さえあれば納得感は必ず醸成できるのです。
具体的には、初任給を上げるタイミング(または上げた後)に全社説明の場を設けます。経営陣は次の3点をロードマップとともに伝えましょう。
| 説明すべき内容 | ポイント |
| 現在の採用市場の厳しさ | 賃上げが不可避となった外部環境を共有する |
| なぜこの初任給にしたのか | 会社の未来のための決断だと言語化する |
| 既存社員の給与テーブルの引き上げ計画 | 2〜3年後の具体的ロードマップを提示する |
「新卒の初任給を〇万円に上げた。これは苦渋の決断だが、皆さんの貢献も忘れていない。2年以内に全体の給与ベースを引き上げる計画だ」。この発信だけで、受け止め方は大きく変わります。誠実な言語化さえあれば、現場は「一緒に会社を大きくする仲間」に変わってくれるのです。
5年後・10年後の伸び幅で応募者を惹きつける
2つ目の施策は、初任給の数字ではなく「5年後・10年後の伸び幅」で応募者を惹きつけることです。大手企業と同じ土俵で初任給を競う必要はありません。中小企業が本当に勝負すべきなのは、入社後のキャリアスピードとポストへの近さです。
大手と中小のキャリア設計の違いは次のとおりです。
| 項目 | 大手企業 | 中小企業 |
| 初任給 | 高め(例:30万円〜) | やや低め(例:24万円〜) |
| 昇給スピード | 年功序列で緩やか | 成果・成長に応じて速い |
| ポスト | 詰まっており到達に時間がかかる | 空きが多く早期昇格が可能 |
| キャリア設計 | 標準ルートに乗る | 手挙げでリーダーやマネジメントを狙える |
求人票や面接で伝えるべきは、初任給の数字ではありません。「初任給24万円スタート、3年目で35万円、5年目にマネジメントで45万円」といった、入社後の伸び幅のリアリティです。既存社員の給与バランスを守りつつ将来の総量で惹きつける情報設計こそが、中小企業の採用力を根本から高めます。
給与競争から降りて「働きやすさ」で差別化する
3つ目の施策は、給与競争から潔く降りて「働きやすさ」で差別化することです。資本力で勝る大手企業に、額面で勝つのはそもそも不可能です。中小企業が武器にすべきなのは、意思決定のスピードと柔軟性にほかなりません。
大手が真似しにくい「柔軟な魅力」を、以下のように設計しましょう。
| 大手が真似しにくい柔軟な魅力 | 具体的な設計のヒント |
| 圧倒的な裁量権の大きさ | 年次に関係なく、手を挙げれば翌月からプロジェクトにアサインされる環境 |
| 副業の完全容認・支援 | 他社での経験を歓迎し、会社の資産として還元してもらうカルチャー |
| 自由度の高いフレックス・在宅勤務 | コアタイムなしのフルフレックスや、ライフステージに合わせたリモート運用 |
「給料は大手ほど出せない。でも満員電車に乗る必要はないし、自分のアイデアが翌月には事業になる。副業も応援する」。今の若い世代にとって、こうした条件は数万円の給与差を優に超える価値を持ちます。自社の「本当の価値」を言語化し、求める学生へ応募導線をつなぐことこそが、中小企業の採用マーケティングの本質です。
関連記事:採用で年収を上げても採れない理由とは?中小企業が採用競合に勝つための考え方
まとめ|給与設計の見直しで組織の未来を守ろう
初任給を上げる一手だけに頼ると、既存社員の不満が組織を静かに壊していきます。給与逆転による組織崩壊を防ぐ鍵は、経営陣の誠実な説明・キャリア設計・働き方の魅力設計の3つです。
ここで意識したいのは、教える側の先輩の納得感がこれからの育成型組織を支えるということ。採用は求人票の数字だけで完結する作業ではなく、評価・教育・カルチャーが連動した「会社づくり」の一部です。
給与だけで太刀打ちできないなら、自社の価値を言語化し、独自の働き方や裁量権を武器に磨いていくしかありません。派手な打ち手より、地道な対話と言語化の積み重ねの方が、会社を強くします。まずは自社の給与設計と魅力設計から見直してみましょう。
「初任給を上げたいけれど、既存社員の反応が怖い」。そんな板挟みで動けなくなっていませんか。
採用競争が激しくなる今、求人票の数字だけを上げる賃上げは、組織崩壊のリスクを孕んでいます。必要なのは、自社ならではの「魅力設計」と、既存社員が納得できる「ストーリーの言語化」です。
Revive(リバイブ)では、求人媒体の掲載にとどまらず、評価制度・教育体制・カルチャーの明文化までを含めた「採用マーケティング」の仕組みづくりを一貫してご支援しています。
- 既存社員の反発を招かない、初任給引き上げの「説明シナリオ」の作成
- 給与額面に頼らない、自社独自の「働き方の魅力」の設計
- 採用から定着までを一気通貫でつなぐ組織づくりのご相談
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